みるく工房飛鳥通信 西井牧場のasukaの独り言
牛歩の遍歴 四十六歩目
Kさんが日本に帰ってしばらくすると、家の周りから草地まで一面にたんぽぽが咲き出した、そう言えば「もうすぐたんぽぽが咲くからそこらへんが黄色で埋め尽くされるから見事やで」ってKさんが言っていたのを思い出す。牧草も刈り取るのに良い具合の長さになってきた、シェフが「ビッテ、ニシイ、マシーネ、プッツェン」と俺に声をかける、何々、「機械をみがけ」って、わけの分からぬままシェフについて行くと、なんと古ぼけた牧草を刈る機械が倉庫の中に置いてあった、前にバリカンの幅の広い刈り取りの歯がついているテェイラーみたいなものだった。
機械は旧式だが磨きはかかっている、スイス人の気質というか古い物を大事に扱い整備はもとより丹念に磨きをかける、横に置いてあるトラクターもさすがに年代物で聞くところによるともう20年近く使っているそうでまだまだ健在だそうだ。
といあえずバリカンの歯をはずし目立てをするらしい、シェフの行動をずっと見守りながら「はは〜ん、このようにするのやなぁ」と会話もなく仕草だけで仕事を学びとっていく、エンジンがかけられバリバリとエンジンが唸る、シェフが試しに草を刈り始める、なるほど立っていた草がみごに倒されていく、一往復してきたシェフが俺にやれって手招きで指図する、やってみるとさほど難しくはなく「なんや、簡単や楽勝やな」って独り言を言いながらしていると「ガリッ」と音がするとそこだけ草が刈れない「ヤバイ」と機械を止めバリカンを見ると歯が欠けている、どうやら石を噛んだらしい、それ見ていたシェフが別の替え刃を持って来て取り替えてくれた、「後でこれをもう一度みがけって」言う仕草をした、ちょっと不機嫌そうだったのでバツが悪く調子にのっていたらあかんわと反省させられた。
この草は今晩の牛君達の餌になるので早く必要な分だけ刈って牛舎に運び込まなくては、シェフがトラクターにラウフワゴン(刈った草をワゴンに拾い上げていく機械)を牽引して草を集めかけた、今日はシェフがするけど明日からお前がしろと言われドキドキものだった。
その夜、ある人から国際電話が入ったのだった。