みるく工房飛鳥通信 西井牧場のasukaの独り言
牛歩の遍歴 四十五歩目
朝の仕事が終わってキッチンに入いると、初春の日差しが差し込みなんと新鮮なんだろうと思わされた、テーブルの上にはいつものようにチーズ、パンとマーガリン、ジャムそれとコーヒーポット、ミルクが置かれている。俺はいつもの窓際に座りコーヒーとミルクでカフェオーレをつくりパンにマーガリンとジャムを塗る、もちろんジャムは木苺の手作りだ。なぜかこの時が一番落ち着く、朝の仕事を終えくつろぎの時間とも言えるだろう。またスイスに来ているんだと実感したのもこの時である。
しだいに慣れてきたのでだろうか、シェフの言葉が理解してきたのもこの時だったと思う、
昼間の仕事はしばらくシェフと一緒にしていると身振り手振りで教えてくれる。そうしているうちに何をしなければいけないか良く分かってきた。言葉が通じなくてもその雰囲気で分かってくる「なるほど・・」って感じたものだ、
数日後、Kさんが旅行から帰ってきた。その夜は子供達も賑やかで土産を貰って喜んでいた「明日、日本へ帰るから」とKさんが言う。いつも突然言い出す人やなと思っていたがいきなり言うか、でもKさんが帰ったら俺は一人やないか、せつなさに追いやられたような気持ちだった。
翌日、Kさんは大きなスーツケースを引きずりながら仕事をしている俺に「じゃ、帰るよ一年は直ぐに過ぎてしまうから頑張れよ」と言葉を残しシェフの車に乗り込む「気をつけて」の一言しか言えなかった俺だがKさんは「帰ったら、ちゃんと報告しとくから」と言い返した。車は動きだした、しだいに遠くなるにつれて寂しさが込み上げてきたものだった。