みるく工房飛鳥通信 西井牧場のasukaの独り言
牛歩の遍歴 四十四歩目
明日から俺はわけの分からないまま仕事をするのかと思うと今夜は眠れそうにない。こちらに来て荷物の整理がまだできてない。スーツケースの中からいるものだけを取り出しひとつひとつ片付けを始めたがKさんの荷物がまだ残っているので、そこそこしているうちに明日でも続きをしょうかと思いベットに横になると知らぬ間に眠り込んでいた。ふと気がつくと外で搾乳のコンプレッサーの音が聞こえる「やばい」と思い飛び起き牛舎に向かう時間は朝5時だった。もうすでにシェフが搾乳を始めている。俺の顔を見ると「グットモルゲン」と笑顔で話しかけてきた。ここでも俺の悪い癖が出てしまったシェフが挨拶しているのに俺は笑顔だけで言葉をださなかった。
シェフが手振り身振りで搾乳の仕方を俺に教える。日本では搾る前によく乳頭を殺菌剤につけた布で汚れをふきとるのだけれどこちらではお構いなしで手で汚れを落とすとだけと言う簡単なものだ。機械は日本と変わらずでバケット式のミルカーで一杯になるといちいち牛乳缶に入れなおさなければならない。
搾乳をしている間にトムは牛に餌をやる、これもかなり少ないのには驚きだ、しかし干草はふんだんに与えていて「どう、きれいにお腹が大きくなってるやろ」とシェフは言う、なるほどこちらではこのように草を中心とした餌のやりかたをするのやと感心したものだった。糞尿は水洗で牛の後ろ、つまり糞の落ちる所がスノコになっていて水で糞を流し落すのだ、牛舎の裏には糞尿層がありそこに貯められ雨水まで引き込まれている、後で知ったのだが草地へ尿撒布するために濃度を希釈しているのだと、また醗酵をさすためにモーターで羽根を回し醗酵促進できるように作ってあるのには驚きだった。
ひとまず牛舎の仕事が終わろうとしている時にトラックが入って来た、集乳車だ、何軒もの農家を回ってきたのだろう牛乳缶がずらっと積まれていた、
シェフが運転手に俺を紹介した、その運転手は背が高く筋肉隆々とした見た目55歳位のたくましい男性だった彼は「モルゲン」と言い握手を求めたが、ここでも悪い癖がでて俺はおじぎしか出来なかった。でも彼は笑顔を浮かべていたのが記憶にある。
朝の仕事が終わり「エッセン」(食事)とのシェフの言葉でようやく朝食にありつけるとキッチンに向かった。