みるく工房飛鳥通信 西井牧場のasukaの独り言
牛歩の遍歴 四十三歩目
遅れながら、トムがポケットにつっこんだハンカチで顔を拭き拭き入って来た。子供たちはもう学校に行ったらしくあたりは静かだった。全員が揃ったところで食事の前のお祈りが始まる。俺はわけが分からないまま皆が両手を合わせているので同じように手を合わせお祈りをした。これは慣れないと絵にならないわと心で呟きながら終わるのを待っていた。朝食はごく簡単なもので、パンとマーガリン、ジャム、あとはチーズだけだ。コーヒーとミルクが前のポットに入れられており各自めいめいに好きなだけコーヒーをいれ、その後ミルクで調整するらしい、いわゆるカフェオーレだ。
パンはフランスパンでこれも前の籠にスライスして置かれている。Kさんは普段のような振る舞いでパンを取りマーガリンを塗りそのうえにジャムを塗る「こねんやったらおいしいで」って俺に教えてくれる。俺も真似をしてやってみた。なるほどなかなかイケルナ・・と思いながらコーヒーを取りオーレを作って味をみてみるとコクと風味があり味わい深いものだった。シェフがチーズを切って俺にどうやって言うしぐさをした。その時、日本人の悪い癖が出てしまった。手を横に振っていらないというしぐさをしたのが間違いだ「いらんと言ったら次から回って来ないで」と横からKさんが言う。俺はその当時チーズと言うものに全く興味が無く臭いと言うイメージでしかとらえてなかったので本当にいらないのが半分で、あとの半分は遠慮だった。こちらでは遠慮と言うのはほとんど無く嫌と言うと次からは何も出して貰えないことになる、だからこちらでは遠慮は禁物なのだ。あ〜ぁこの時にチーズにはまっていればもっとこちらにいてるときに勉強できたのに・・と今では後悔であとをたたない。
朝食後、Kさんに仕事の内容を教わったがあまりピンと来なかった「とにかく、やっていればそのうち分かるから」とあっさり言われてしまった。「俺、今夜から夜行に乗ってユングフラフへスキーに行くから後頼むな」ってKさんは軽く言う。「えっ、俺一人ほって行くの、後2,3日いててよ」と頼んだが「いくらいててもいっしょやで、頑張ってや」と言い残し夕方に出て行ったのである。