みるく工房飛鳥通信 西井牧場のasukaの独り言
牛歩の遍歴 四十歩目
Kさんは何気なしにどんどん歩く。俺は肩にショルダーバッグをひっかけ重い荷物を引きずりながら後を追いかけた。言うのを忘れていたがKさんは背が高く見た目、180cmはありそうでその足の長さは俺の倍はあるかのように思えた。大股で歩くので早いこと早いこと、後を追っかけるのが精一杯だった。「Kさんちょっと待ってよ」と思わず声をかけてしまった。「荷物持ったろか」って、今頃言うなよと心でつぶやきながら「なんで、そんなに急ぐの」と聞くと「労働許可書を貰いに行かんなん、閉まったらまたここまで来ないとあかんからな」と理由を話してくれた。
空港から何百mかおそらく500はあったろうか、「ここや」とKさんが言う。受け付けで書類を出すと受け付けの女の人が俺に向かって「英語はできるか」と訊ねた。「少しは」と言うと中へ案内され、レントゲンを撮るとの事、上半身を脱いでと言うしぐさで何とか理解できた物のいざ、写真を撮るとならば次から次へと英語で質問がくる。俺はさっぱり分からず「少ししか話せないと言ったのにこれやったら英会話と変わらへんや」と一人で呟きながら首をかしげていると向こうも分かったか何も話さなくなった。どうにか事が済み表へ出てくるとKさんがまた「行くで」と早歩きで歩き出す「今度は何やのと」と言うと「早く電車に乗らないと帰るのが遅くなってしまう」の一言。後はどのように電車を乗り換え実習先まで行ったか記憶はほとんど無かったが、チューリッヒからルッツエルンまで直通の電車で車窓から見えるスイスの風景を見ながらようやくスイスへ来たんやと実感が湧いてきたものだった。何時間乗っていただろうか、ようやくルッツエルンに着いたホームは日本のように車高と同じ高さではなく地面と同じなので確か電車の階段を降りたように思う、ドアもすべて手動で自分が開けないと取り残されてしまう。次に電車を乗り換えて次の駅のブライマットと言う駅で降りたのである。
Kさんが「ちょっと電話して迎えに来てもらうわ」と公衆電話をかけに行った。俺は見た物が全て珍しくKさんが電話をかけるさまを後ろから見ながら「なるほどこねんやってかけるんや」と関心したものだ。Kさんは口数の少ない人で駅の前で二人並んで迎えがくるのを待っているとしばらくするとKさんが「あっ、来たわ」と叫ぶと同時に滑り込むように入って来た。Kさんがシェフやと俺に紹介されたが、何を言っているのか全く分からないままだった。シェフはニコニコしながらドアを開けてくれ車が走りだした。