みるく工房飛鳥通信 西井牧場のasukaの独り言
牛歩の遍歴 三十ニ歩目
北海道もお盆が過ぎると急に寒くなる、朝、部屋から食堂へ降りて行くとストーブに火が入っていた「なんと、もうストーブやね、関西では考えられないわ」と言うと「こちらでは寒くなるのが早いから・・」「冬になると一日中ストーブの守りや雪で何処も行かれないから」って、北海道の冬の厳しさを実感するように俺に話し掛ける。
干草の仕事はある程度かたづいたが、何回も雨にあてられた悪い干草をトラクターに乗って草を反転する、空気が乾燥し直射日光が当たっているときはとても暑いがいったん雲に隠れると非常に寒い、これが北海道の気候で温暖の差が激しい。
俺の北海道での実習もあとわずかになってきた、来た時はいったいどねんなるんやと思っていたがしだいに身体も仕事や習慣にも馴染んできたのに・・・毎日、トラクターに乗ってゆうゆうと仕事をこなした、いよいよ8月も押し迫り明日帰宅と言う夜にC子から電話が突然入る「もう、帰ってくるのと違うの空港まで迎えに行ったるわ」「飛行機のチケットはよう買う事できるキャンセル待ちでやったら安くいくで」って相変わらずのおせっかいぶりだ、しかし俺にとってはとても嬉しくまた懐かしさがこみあげて来たが素直でない、いや照れが「余計なお世話や」と言う言葉に変わってしまった、「ふん、じゃぁ〜勝手にしたらいいわ、せっかく教えてあげているのに、とりあえず飛行機の時間わかったら教えて」といきなり電話を切られた、しかたがない俺も小心者なので一人で帰るのが不安だったのだが、どうにかなるさと思いつつ帰宅の準備を進めた。後、実習で来ていた二人はめいめいに北海道をもう一度観光したいと言うので別々で帰宅することにしたのだ。
翌日、主人が牛舎の仕事を終えた時に「今日で終わりやな、ご苦労様、空港まで送ったるわ」と言って封筒を渡された、手に取って何かなと思い不思議そうな顔をしている俺を見て「今日までの給料や」と言って家へ戻っていった、その時の主人の寂しそうな顔はやはり忘れがたいものがあった。
昼過ぎに主人が空港に向かって走りだす、来た時は夜遅くだったので回りの風景が分からなかったが今になってこんなんやったんやって思い知らせる事がたくさんあった、
ようやく空港にたどりついた、主人は「まだ、仕事があるのでここでな帰るわ・・」車の窓越しから叫んだ、「いろいろと、ありがとう」と笑顔で俺は答えたつもりなのだが何故か目頭が熱く感じた、主人の車が去り行くまで見送り空港カウンターへ向かった。