みるく工房飛鳥通信 西井牧場のasukaの独り言
牛歩の遍歴 三十六歩目
本年もいよいよ始まりだ、当時学生の頃の記憶をたどるといかに自由奔放で気楽に過ごしていたか、正月は毎年恒例で中学時の悪友とタムロして酒を飲み交わし別にこれと言った話は無いのに時間だけが無駄に過ぎていったものだ、あの年は俺が春からスイスへ行く予定になっていただけに余計にそのように感じたのだろう。
前置きはさておいて農家実習の話にもどろう、牛舎の二階の一部屋を借りそこで寝泊りをするようになったが山間とあって夜は冷え込んだものだ、一つのあんか(豆炭あんか)を抱きかかえ布団に潜り込んだのだった、朝は5時に起床、窓には露がべっとりで外が寒そうと言う気配がすぐに分かる、あの頃はまだまだ若さあり飛び起きて牛の搾乳をしたものだ。
ドイツ語のレッスンは金曜日の昼から行うと某高校の先生でもありまた牧師でもあるU氏から連絡が来たのは実習に入って数日後のことである、その当日に地図を書いてもらい隣の三重県まで車で走ることにした。ざっと40分位で到着したが場所がいまいち分からない、すぐに分かるからって安心して来たものの電話番号ぐらい聞いておけば良かったと思っても後の祭りや、近くの人に尋ねても知らないと言われ回りまわってようやく「その人やったらそこの先や」と教えてくれた、やっぱり住宅だと隣近所の関係が無いのだなぁとつくづく思い知らされた、やっとのことでU氏の自宅にたどり着いた約束の時間より30分は経過していた、ベルを鳴らすと「はい、はい、」と声が聞こえドアを開けてくれた。
少し小太りでパイプをくわえ赤ら顔でやさしそうな目で「ようこそ」って迎えてくれた、
U氏の話によると昔、ドイツに仕事で行きドイツの方と結婚をしてしばらくの間向こうで暮らしていて、家の事情でこちら日本に帰ってきたようだ、ともあれ週に1回で実習の間の2ヶ月間、つまり8回しか無いのだ、U氏にドイツ語を基礎から学ばなければならないので世間話は短めに終わってしまった。
無事に戻って来た時はもう牛舎へ入る時間だった、その日は気疲れか分からないけど仕事が終わってからドイツ語の復習もすることなく眠ってしまった。