みるく工房飛鳥通信 西井牧場のasukaの独り言
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もう11月、早いものだ、秋の取り入れも終わり、あちこちで田んぼから煙が立ちのぼる、勢いの無くなった太陽の光が煙でぼやける。その向こうには、色づきはじめた木々が鈍く映る、この光景は数十年見ているはずなのに、いつも新鮮に思うやはり、心の古里、明日香ならではないだろうか |
牛歩の遍歴 十歩目
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秋も深まって、あの日を思い出す。確か中学2年の頃だったと思うが、奈良の木造の某小学校が解体されるとか。「買わへんか」と親父に連絡が入った。さっそく奈良まで物件を見に行ったが、さすがにバカでかい。昔から由緒のある学校だけに建物が超本格派、我が田舎の母校にくらべるにも満たない。「ほんまに、これ買うんか」と思わず問いかけてしまった。話が急なだけに親父の決断は迫られていたが後日、「あれ、買うたで」の一言には、世間が分からない俺にとっても重大な発言。と言うよりも「ほんまにやっていけるのやろか」と重い責任感が押し寄せてきた。 |
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その後、とんとん拍子に話は進み、解体された学校の木材が運び込まれ山のように積みあげられた。後は春に向けて牛舎の建設を待つのみとなった。この頃にはもう、木の葉も赤から茶にかわり、季節は冬へと向かっていた。身体に当たる風はしだいに冷たさを感じさせ、来年への不安と期待感を残し時は進む。翌年、早々にいよいよ工事が始まった。なにやら慌ただし日々が続く。親父やおふくろは土建屋や大工の小手間に走り周っていた。それを横目にいつもながらのペースで俺は暮らしている。なんと今から思えば薄情な奴だったのだろうか。学校の休みの日には手伝いに行くが、それ以外は全くといって良いほど学生生活をエンジョイしていた。雪の降る日も、北風の吹き荒れる日も、毎日毎日が牛舎建設の作業の連続だ。この春には、もう牛が北海道から入ってくる。工事を間に合わせなければならない。このような、苦労と努力によってこの工事は完成へと向かう。ふと、牛舎を見上げるとその時の光景が今になって思い浮かぶ。 |